7章 記憶3:知識の構造
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7-1. 宣言記憶の構造
7-1-1. 情報の組織化
情報処理のレベル→宣言記憶の中の情報は概念によって表象されていると考えられている。 概念と概念のあいだの関係も一緒に保存されている
7-1-2. 意味ネットワーク
"カナリア" is a "鳥" → 「isa」リンク
7-1-3. 階層構造の検証
人間の記憶の中で概念は本当にこのような構造を持っているのだろうか?
ノードの距離に応じて情報の取り出しに時間がかかるはず
正誤判断:3種類の文を1つずつ
カナリアは歌う→1310ms
カナリアは羽毛を持つ→1380ms
カナリアは皮膚を持つ→1470ms
宣言記憶の中では確かに概念は階層的に構造化されている
7-1-4. 命題ネットワーク
意味ネットワークでは1つのノードが複数の概念を表している
「皮膚」を「持つ」
文の形は変わっても、変わらない内容。文そのものではなくその中身。
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図7-2では、便宜上、概念を言葉で表しているが、概念=言葉ではない
語彙のデータベースは別に存在している
対応する概念は言葉に変換されたりリンクされていると考えられている
7-1-5. 命題ネットワークの検証
文をたくさん覚えてもらい、その後言葉を提示し連想テスト
「大きな」→「少年」よりも「ボール」の方がずっと連想されやすい
「ボール」→「大きい」:リンク2本
「少年」→「大きい」:リンク4本
宣言記憶のなかでは命題ネットワークは、直接的であれ間接的であれ、すべて互いにつながっている
7-1-6. スキーマ
共通の概念を介して総当たりで命題連結するだけでは保存されている情報を活用することは極めて困難
「その生徒は学校で叱られることを覚悟した」→「学校には先生がいて、先生はときには生徒を叱ることがある」という情報を思い出すことが必要
7-1-7. スキーマの例
「学校」
(slot : defalut value)
isa : 教育機関、社会組織
部分:校舎、校庭
成員:先生、生徒、警備員
機能:教育
isa :上位概念を示すスロット。isaスロットによって、スキーマは階層的な概念構造を表すこともできる。
既定値は変更されるかもしれない。
「放送大学」→校舎、校庭ではなく、「学習センター」や「スタジオ」
スロットに入る値もまたスキーマ構造を持っている。
このようにスキーマは連結された多数の概念から成っている
基本的には膨大な命題ネットワークの一部分と考えることもできる
ただし、ある概念にとって、もっとも重要な概念のまとまりから構成される一部分
7-1-8. 自然カテゴリー
「動物 ― 鳥 ― カナリア」といったカテゴリーの階層構造は命題ネットワークによってうまく表すことがっできる。
ふつう、カテゴリーというものは何らかの特性によって定義されると考えられている
「ハートのマーク」という特性→ハートのカテゴリーに入るかどうかが決まる
ハートマークが書いてあるのがハートのカード
スペードのマークが書いてあるのはハートではなくスペードのカード
こうした理解は、論理学的なカテゴリーの場合にはよくあてはまる。
日常生活で使っているカテゴリー
どういう特性をつかってもきちんと定義することはできないことが普通
e.g. 鳥カテゴリ
最大の特徴は「飛ぶこと」 → 飛べない鳥は多いが鳥であることに変わりはない
翼 → 翼をまったくもっていないモアという鳥
分類学的には鳥は微細な解剖学的構造によって定義されているが、普通の人はそんなことは知らずに鳥というカテゴリを使っている
カテゴリーは何か定義特性とは別の方法で出来上がっている
7-1-9. メンバーの典型性
カテゴリーが何か1つの特性で定義されているとする
その特性さえ備えてさえすれば、みな平等にそのカテゴリーのメンバーということになるはず
実際にはカテゴリーのメンバーは平等ではない。
典型性が違う。
おなじカテゴリーに属する様々な事例→実験参加者が典型的なメンバーだと感じられるか判断
典型的 1 ↔ 7 非典型的
鳥:スズメ1.18, ペリカン2.98, ペンギン4.53
実験参加者に2つの絵を見せて、同じカテゴリに属するかどうかをできるだけすばやく判断
反応時間:「スズメ」&「カナリア」<「ペンギン」&「シチメンチョウ」
7-1-10. スキーマによるカテゴリーの表象
典型性の違いがある→カテゴリーがスキーマによって表されている
スキーマの場合、カテゴリーは1つの特性によって画然と定義されるわけではない
いろいろな特性を表す多数のスロットと底に入っている既定値によって緩やかに定義される
既定値をたくさん持っている事例は「鳥」だと判断され、まったくもっていない事例は「鳥」ではないと判断される
典型性の違い→どれだけ多くの既定値を持っているか
7-1-11. スクリプト
スクリプト=台本
レストラン
レストランに入る→空いてる席を探す→…‥→レジに行く→勘定する→店を出る
取るべき行動が時間的な順序にしたがって構造化されている
レストランの種類によってスクリプトは異なる
高級レストラン
食券
スクリプトを用いて物事を理解したり思い出したりしていることは様々な実験によって確かめられている
主人公は基本的にスクリプトに従った行動を取るが、スクリプトの一部は明示されなかった
参加者は実際には聞いていなかった部分を再生してしまった
異文化では自分の持っているスクリプトが通用せず適切な行動を取ることができないという事態が頻繁に起こる
7-1-12. 素朴理論
命題ネットワークは、概念を多様な関係で連結可能
現実の世界を理解するために直感的に形成する説明のシステム
e.g. 「生き物は食べ物をとると大きくなる」
スキーマの一種と考えることもできるが、因果的な説明や自然法則を含んでいるという点で、カテゴリーや出来事を表すスキーマとは異なる特徴を持っている
主に日常体験を元に形成される
自分の文化で信じられている説明が親から伝えられたり、科学的な知識が学校で教えられたりして、混在していることが普通
科学的な知識に由来していない部分は事実と大きく食い違うこともある
螺旋状に巻かれたホースの中をたまが転がり落ちてきた。ホースから出たとき玉の軌道は?
実際には直線軌道を取る
素朴理論は日常生活をうまく導いてくれる程度には現実に即している事が多い
7-1-13. 自伝的記憶
自分自身に関する記憶
特定のときと場所に結びついていないものは、意味記憶的な性格をもった自伝的記憶
高齢者が過去の体験を思い出そうとするとき、基本的には昔のことほど思い出しにくいが、10代の終わりから20代の終わりにかけての時期については比較的たくさんのことが思い出せる
年齢全体の想起の割合をグラフにとると10代~20代にかけて山ができる=レミニセンス・バンプ
人生の重要な出来事がこの時期に集中していることが原因ではないかという説が有力
5歳ぐらいまでのことはほとんど思い出せない事が多い
出来事を理解するためのスキーマやスクリプトができていないので、あとから想起することができないという説
神経系の発達がまだ十分ではないという説
自伝的記憶は「自己」というものが成立するうえで重要な役割を果たしている
自分が体験した過去の出来事がすべて思い出せなくなる
障碍が発生した時点から遡った一定期間の記憶だけが失われる
この場合も、言葉の意味や一般的な知識は思い出すことができる
自伝的記憶は宣言記憶の中でも特別なまとまりをなしていることがわかる
7-2. 意味の生成
7-2-1. 命題ネットワークによる意味の表象
意味記憶には概念の意味が記憶されていると考えられている
意味というのは具体的にどのように表されているのか
命題ネットワークを前提として考えると概念の意味は基本的には概念間の結合の仕方から生み出されていると考えることができる
「鳥」「黄色い」「歌う」→黄色い歌う鳥なのだからカナリアを表している
命題ネットワークのなかの概念はどれも相互に意味を規定しあっている
どれかが特別な地位にあって他の概念の意味を規定しているわけではない
7-2-2. 公共的な意味と個人的な意味
公共的な意味: ある概念について知っている誰もが持っている情報= 個人的な意味: 意味が概念間の結合から生まれるとすれば、個人的な記憶なもある概念の意味の一部を担っていることになる 7-2-3. 情報処理システム全体による意味の表象
概念の意味は命題ネットワークのなかで閉じているわけではない
e.g. 「自動車」という概念は自動車の知覚情報ともつながっている
見たときやエンジン音を聞いたときに、「自動車」というノードに繋がり、自動車という意味の認識が生じる
運転する際の手続き記憶や筋肉を動かす運動プログラム、乗り物酔いの身体感覚などにつながっている
7-3. 想起
7-3-1. コンピュータの想起
コンピュータは番地を使っている
7-3-2. 連想記憶
番地を介さず、直接内容を呼び出す
ある情報の活性化=その情報を使った情報処理が実行できる状態になること
この活性化は命題ネットワークの中で拡散していく
隣のノードが活性化するかは確率的に決まる
遠くに伝わるにつれて活性化は弱まっていく
したがって、ひとつのノードの活性化が拡散する範囲は命題ネットワークのごく一部にとどまる
7-3-3. 間接プライミング
活性化の拡散を示す証拠は数多く得られている
間接プライミング:はじめに提示される単語≠あとでテストに使われる単語
「看護師」という単語を提示
直後に「医者」という単語か「サコヘ」というような非単語を提示
単語か非単語かを出来るだけ早く正確に判断
看護師のノードが活性化→医者のノードも活性化する
医者という言葉の情報処理は促進され早くなる
バターは医者のノードまでは離れている
すなわち、この実験結果は活性化が近隣に拡散することを示している
7-3-4. 連想記憶における想起
想起がどのように行われるか
e.g. 「鳥」「黄色い」が提示された
2つのノードが活性化すると、その両方につながっている「カナリア」のノードも活性化
活性化が十分に強ければ「カナリア」という言葉が想起される
連想されるので「連想記憶」
番地を介さず、情報内容から直接アクセスするので、「内容を呼び出すことができる記憶」
7-3-5. 想起方式の適応的な意味
命題ネットワークではノードAとノードBを結合するリンクは繰り返し使われるほど強度が増し、ノードAの活性化→ノードBが活性化する確率や活性化の程度が高まると想定されている
反復練習の効果に関する実験的な研究にもとづいている
「bee — ミツバチ」と何度も繰り返して唱えたほうがあとから「bee」を見たとき「ミツバチ」が浮かんできやすくなる
この仕組は情報の統合に役立っている
反復使用によってノードの強度が増すという仕組みがあると、確度の高い予想が可能になる
この仕組では、個々の時点でどのような情報が得られたかという記憶は明確に保持されず、特定の時点での経験を正確に想起することは困難になる
7-4. 忘却
7-4-1. 減衰説
後の精密な研究によっても裏付けられている
記憶痕跡が薄れて消えてしまった場合に忘却が起こる
「忘れたと思っていた記憶がなにかの拍子に蘇ってきた」という体験
患者の脳を露出させた際に脳のいろいろな部分に電極をあてて刺激してみた。
忘れてしまったと思っていた記憶も消えてしまったわけではないのかもしれない
ペンフィールドの研究では「思い出したこと」が本当に体験したことの記憶なのか、その場で生じたイメージに過ぎないのか明確に判別することができない
他の実験的な研究からも思い出せない記憶が残っている場合があることは確認されている(たとえば, Nelson, 1971)
7-4-2. 干渉説
記憶が残っているにもかかわらず思い出せない
あることについての記憶が思い出せなくなるのは、別のことについての記憶が干渉して思い出すのを邪魔するからだと考える
干渉が生じることは多くの実験によって確認されている
実験群:A-BとA-Cを憶える
統制群:A-BとD-Cを憶える
命題ネットワークで考えるとノードAから結合しているノードBを想起することは、ノードAにノードCが結合してる場合にはより難しくなる
記憶痕跡が減衰したために生じたように見える忘却もこの干渉によって説明することができる
時間が経てば経つほど情報量が増える→干渉も増える→忘却される情報の量も増える
7-4-3. 両説の証拠
単語のリストを学習した後に、起きていた場合と眠っていた場合を比べると、確かに眠っていた場合のほうが成績は良い
こうした研究の場合も減衰がまったく起こらないということを説明したわけではない
最近では干渉と減衰の両方が忘却の原因になっているという見方が有力になってきている
7-5. 記憶と脳
7-5-1. 神経ネットワーク
実際に知識を保存しているのは脳
人間の脳は50億とも1000億ともいわれる神経細胞の集まり(神経細胞は推定値。全部数えた人はいない。)
信号は相手の神経細胞のインパルスの発生しやすさについて促進的な働きと抑制的な働きをする場合がある→シナプスの種類による
ネットワークの中で神経細胞がどのようなつながり(コネクション)を作っているかによってどのような情報処理が行われるのかが決まる
7-5-2.並列分散処理
神経細胞のはたらきについては生理学的な研究も数多く行われているが、認知心理学では計算機科学などとも連携して数学的に解析したり、コンピュータ・シミュレーションによって盛んに研究されている ユニット(コネクショニズムの研究で神経細胞の役割をする素子)からなるネットワークを対象としている
普通のコンピュータはCPUが逐次的に情報を処理する
神経ネットワークの場合は各所で同時進行
スパコンは演算装置が同時に情報処理をするようになってきたが脳の並列処理とは方法が異なっている
分散処理:1つの情報処理を1つの神経細胞が行うのではなく複数の神経細胞が分担して行うという方法 意味ネットワークは一見したところ神経ネットワークのように見えるが、神経ネットワークでは1つの細胞が1つの概念を表すという仕組みにはなっていない
2という数字を表示したときの1つの光点は8や9を表示するときにも光る
神経細胞は他の複数の神経細胞と臨機応変に組み合わされて、いろいろな情報を表すのに使われている
7-5-3. 神経ネットワークによる記憶
コネクショニズムの見地からすると、ユニット=神経細胞の繋がり方を換えるということにほかならない
e.g. 1 + 1という入力→2を出力できるようにユニットの結合の強さを換えていく
意識化で行われる学習、自然に体得
e.g. たいていの日本人は日本語を文法的に正しく使うことができるが、日本語の文法を正確に説明することはできない
日本語の文法は自然に体得した手続き記憶
意図的に行う学習を神経ネットワークによってどのように説明するかという問題は大きな未解決の問題
コネクショニズム研究で用いられるユニットは生理学的な研究から明らかになっている神経細胞の性質と完全に一致しているわけではない